大阪高等裁判所 平成8年(ネ)3745号 判決 1998年5月29日
主文
一 原判決主文一項に関する日本コンベンションの乙事件の控訴を棄却する。
二1 原判決主文二項及び五項の一審甲事件原告横野真理関係部分を甲事件の控訴に基づき次のとおり変更する。
(一) 日本コンベンションは、一審甲事件原告横野真理に対し、一一一万三〇〇〇円及びこれに対する平成二年八月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 一審甲事件原告横野真理のその余の請求を棄却する。
2 原判決主文二項に関する日本コンベンションの乙事件の控訴を棄却する。
三 原判決主文三項に関する日本コンベンションの乙事件の控訴を棄却する。
四 原判決主文四項に関する日本コンベンションの乙事件の控訴を棄却する。
五 原判決主文五項に関する一審甲事件原告小倉徳子、同萩原政彦、同久保田玲子の甲事件の控訴を棄却する。
六1 原判決主文六項中一審甲事件原告・一審乙事件被告吉岡純二関係部分を甲事件の控訴に基づき次のとおり変更する。
(一) 日本コンベンションは、一審甲事件原告・一審乙事件被告吉岡純二に対し、三七四万六〇〇〇円及びこれに対する平成二年八月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 一審甲事件原告・一審乙事件被告吉岡純二のその余の請求を棄却する。
2 原判決主文六項に関する一審甲事件原告安陵萌子、同紫富田薫の甲事件の控訴を棄却する。
七1 原判決主文七項中一審乙事件被告吉岡純二、同隈崎守臣に関する部分を乙事件の控訴に基づき次のとおり変更する。
(一) 一審乙事件被告吉岡純二、同隈崎守臣は、連帯して、日本コンベンションに対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 日本コンベンションのその余の請求を棄却する。
2 原判決主文七項中株式会社コングレに関する日本コンベンションの乙事件の控訴を棄却する。
八 訴訟費用の負担は次のとおりとする。
1 一審甲事件原告横野真理と日本コンベンションとの間で生じた訴訟費用は、一、二審を通じてこれを五分しその一を同横野の、その余を日本コンベンションの負担とする。
2 一審甲事件原告・一審乙事件破告吉岡純二と日本コンベンションとの間で生じた訴訟費用は、一、二審を通じてこれを一〇分しその一を同吉岡の、その余を日本コンベンションの負担とする。
3 一審甲事件原告小倉徳子、同萩原政彦、同久保田玲子、同安陵萌子、同紫富田薫の甲事件の控訴費用は同甲事件控訴人らの負担とする。
4 一審乙事件被告隈崎と日本コンベンションとの間に生じた訴訟費用は、一、二審を通じてこれを一〇〇分し、その一を同隈崎の負担とし、その余を日本コンベンションの負担とする。
5 一審乙事件被告株式会社コングレと日本コンベンションとの間に生じた控訴費用は、日本コンベンションの負担とする。
九 この判決主文二項1(一)、六項1(一)及び七項1(一)は、仮に執行できる。
理由
第一 退職金の請求について
一 争いのない事実
次の事実は、当事者間に争いがない。
1 吉岡らが日本コンベンションの従業員であったこと。
2 吉岡らの退職の事実。
3 日本コンベンションには、退職金について定めた退職給与規程(<証拠略>)が存在し、同規程には、従業員が退職したときは、吉岡ら主張の方法により計算した退職一時金を支給する旨の定めがあること。
なお、日本コンベンションは、後記抗弁事実である退職金不支給事由との関係では、吉岡らの任意退職の事実を争い、吉岡らは懲戒解雇により従業員でなくなったのであると主張している。しかし、退職金請求の請求原因との関係では、右2のとおり、吉岡らの退職の事実を認めている。
二 退職金不支給事由を定めた退職給与規程の効力(抗弁1)
1 日本コンベンションは、こう主張する。同社の退職給与規程(<証拠略>。以下「新規程」という)一〇条一項には「懲戒解雇により退職となる場合には、退職一時金の全部または一部を支給しないことがある。」との定めがある。同社は、この不支給条項を援用するから、懲戒解雇した吉岡らに対して退職金の支払義務がない、と。
これに対し、吉岡らは、本件不支給条項は日本コンベンションが吉岡らに退職金を支給するのを嫌って退職給与規程を急遽改訂し、不支給事由条項を新設したものであって、新規程は従業員に周知されてはいないから無効であると反論する。
2 本件新規程は就業規則三五条の委任を受けたものであって、それ自体就業規則の一部であるから、就業規則としての退職給与規程の変更の有効性が問題となる。労働基準法八九条は、就業規則の作成及び変更について行政官庁への届出義務を、同法九〇条は、労働組合または労働者代表者の意見聴取義務を、同法一〇六条一項は、就業規則の掲示または備え付けによる周知義務を定めている。もっとも、これらの規定はいわゆる取締規定であって、効力規定ではない。それ故、使用者がこれらの規定を遵守しなかったからといって、これにより直ちに就業規則の作成または変更が無効となるものではない。
しかし、およそ就業規則は、使用者が定める企業内の規範であるから、使用者が就業規則の新設または改訂の条項を定めたとしても、そのことから直ちに効力が生じるわけではない。これが効力を生じるためには、法令の公布に準ずる手続、それが新しい企業内規範であることを広く従業員一般に知らせる手続、すなわち何らかの方法による周知が必要である(なお、就業規則の効力発生要件としての右周知は、必ずしも労働基準法一〇六条一項の周知と同一の方法による必要はなく、適宜の方法で従業員一般に知らされれば足りる)。
3 前示争いのない事実と<証拠・人証略>によれば、次の事実が認められる。
(一) 従前、日本コンベンションには、就業規則三五条の委任を受けた退職給与規程(<証拠略>。昭和四九年三月一日実施、昭和五〇年九月一日改訂)が存在した。同規程は、従業員が退職した場合には、本規程の定めるところにより退職一時金を支給すると定め、退職一時金の計算方法などについて規定していた。しかし、同規程には、従業員が懲戒解雇された場合に退職金を支給しない旨を定めた除外規定は存在しなかった。
(二) 日本コンベンションは、平成二年七月一八日、退職給与規程を改訂した旨の同年七月三日付の就業規則変更届<証拠略>を所轄の天満労働基準監督署長に提出した。右変更届には、平成二年七月三日付けで事業場の労働者代表者である宮崎昭好の意見を聴いたことを証する意見書(意見は「特になし」と記載)が添付された。しかし、宮崎は、労働者の過半数を代表するものではなかった(<人証略>)。
(三) 吉岡は、平成二年七月三日、日本コンベンションに対し、就業規則、給与規程、退職給与規程の全文を送付するように申し入れた。日本コンベンションは、同月六日付けで各全文を吉岡に送付した。吉岡は、新規程の一〇条一項の改訂についてどのような手続で改訂されたのかを問い合わせた。これに対し、日本コシベンションは、平成二年五月三〇日の常務会において決定したと回答した。一審甲事件原告紫富田も退職給与規程の送付を総務部の新井に請求したところ、平成二年七月末頃送付を受けた。証人新井立夫は、通常、改訂規程は全従業員に配布しているので、本件新規程もそういう形で七月末くらいに配布したと思うと証言している。
(四) また、日本コンベンションは、こう主張する。退職給与規程の改訂は、これのみ単独で行われたものではない。社内改革の一環として、各種の規程について逐次行われたもので、その状況は、規程等の整備状況(<証拠略>)のとおりである、と。
(五) 吉岡らの退職指定日は、平成二年七月一五日であり、日本コンベンションが吉岡らを懲戒解雇した日は、同年七月一三日である。右退職日または懲戒解雇日までに、日本コンベンションが新規程を従業員一般に周知した事実を認めるに足る的確な証拠がない。
4 以上によれば、日本コンベンションが、原告吉岡らの退職の日までに、新規程を一般的に従業員に周知した事実を認めることができない。そして、新規程は、前示のように従業員側にその意見を求めるため提示されかつその正当な代表者による意見書が付された上で届けられたものともいえない。このような場合には、就業規則変更の効力は、前示のように、原則として従業員一般に対する周知の手続をとらないままでその効力が生ずるものではないと解すべきである。吉岡や紫富田は、退職前に退職給与規程を取り寄せてはいるが、単に同人らが退職前に新規程の存在と内容を知ったとしても、これをもって新規程の効力が同人らに及ぶものではない。
5 それのみならず、新規程による退職金不支給の定めは、既得権である退職予定者の退職金請求権を奪うものとして、その効力がない。その理由は次のとおりである。すなわち、使用者が就業規則によって労働条件を一方的に変更することは原則として許されない。ただし、その就業規則の変更が法定の手続を経ており、かつその内容が合理的な場合に限り、個々の労働者の同意がなくてもこれを適用できる。そして、本件においては、前認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すると、使用者である日本コンベンションは、既に退職願を出している吉岡らに対し、報復的な意図の下に、密かに右懲戒解雇による退職金不支給規定を急遽新設する就業規則の変更を行い退職金の支給義務を免れようとしたものであると認められる。そうすると、これが吉岡らの本件退職に関して内容的に合理的な就業規則の変更にあたるとは到底いえない。したがって、本件新規程は吉岡らとの関係でその効力がない。
6 そうすると、吉岡らが退職給与規定の退職金不支給条項(懲戒解雇)に該当することを理由とする日本コンベンションの抗弁は、その余の点を検討するまでもなくその前提において既に理由がない。
三 権利濫用(抗弁2)
1 日本コンベンションは、吉岡らには、従業員としての永年の功績を失わしめるほどの重大な背信行為があるから、同人らの退職金請求は権利の濫用であり、許されないと主張する。しかし、当裁判所は、日本コンベンションの右主張は理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。
(一) 前示のとおり、日本コンベンションには、吉岡らの退職当時、退職金不支給事由を定めた新規程は存在しなかった。そうすると、日本コンベンションの退職金制度は、従業員に重大な背信行為があると否とを問わず、また、退職の形式すなわちそれが任意退職であると懲戒解雇であるとを問わず、退職金を支給する内容のものであったと認められる。
(二) 一般に、退職金は、就業規則等により支給条件が企業内の制度として明確に定められた以上、単なる恩恵的給付に止まらず、労働基準法一一条の労働の対償たる賃金の性格を有する。
(三) 吉岡らには、従業員の引き抜き行為、隠し口座の開設、業務引継の懈怠、取引先に対する欺罔行為など日本コンベンション主張の事実は、後示のとおりこれを認めることができない。就業規則及び誓約保証書に基づく競業避止義務については、後示のとおり、雇用契約終了後もなお効力を有するとは認められない。もっとも、吉岡らが被告コングレの設立に関与した事実が認められる。しかし、それは、吉岡らが退職の意思を表示した後のわずかな期間のことであり、これをもって懲戒解雇により吉岡らの永年の功績を失わせるほどの重大な背信行為ということはできない。
2 したがって、日本コンベンションの抗弁2は理由がない。
四 退職金額の計算
1 一審甲事件原告吉岡、同小倉、同萩原の退職金額については当事者間に争いがない。
2 一審甲事件原告横野及び同久保田の退職金額については、退職金額算定の基礎となる同人らの勤続年数について争いがあるので判断する。
(一) 退職給与規程(<証拠略>)三条は、「本規程にいう従業員とは就業規則第二条に掲げるものをいう」と定め、就業規則(<証拠略>)二条は、「この規則で従業員とは第二章に定めるところにより会社に採用された者をいう」と定めている。そして、就業規則第二章は、採用、試用期間、採用決定後の提出書類について定めている。これらの諸規定と弁論の全趣旨によれば、本件退職給与規程は、いわゆる正社員を適用の対象としたものであって、契約社員、アルバイトなどの臨時社員を適用の対象としたものではないと認められる。したがって、退職給与規程一三条の定める退職金額算定の基礎となる勤続年数算定上の「採用の月より」とは、正社員として採用された月をいうものである。
(二) そこで検討するに、横野の入社の時期が昭和五八年一月五日であることは当事者間に争いがない。日本コンベンションは、横野はアルバイトとして入社したものであって、同人が正社員(試用期間付き)となったのは、昭和五八年四月一日であると主張する。
たしかに、発令通知(<証拠略>)には、「貴殿を昭和五八年四月一日より一般職社員として大阪支店勤務を命じます」との記載があり、社員台帳にも、昭和五八年四月一日以降の記載のみがあって、それ以前の記載がない。しかし、厚生年金保険被保険者記録(<証拠略>)によれば、横野は昭和五八年一月五日の入社日に厚生年金の被保険者資格を取得した扱いがなされており、臨時に試用される者(厚生年金保険法一二条二号)として適用除外の扱いがなされていない。また、久保田の場合と対比すると、同人の発令通知(<証拠略>)には、「試雇社員として採用し」と記載され、社員台帳(<証拠略>)にも試雇社員としての採用であることが明示されている。ところが、横野については、何らそのような試用期間の明示がない。これらの事実と陳述書(<証拠略>)によれば、横野の試用期間は必ずしも明らかでないが、同人は、昭和五八年一月五日、正社員として日本コンベンションに採用されたと認められる。そうすると、横野の勤続期間は昭和五八年一月五日から平成二年七月一五日までとなり、同人の退職金は、原判決添付の別紙一のとおり、一一一万三〇〇〇円となる。
(三) 次に、久保田についてみると、前示発令通知(<証拠略>)、社員台帳(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、同人は、昭和六〇年九月一六日、正社員(試雇社員)として日本コンベンションに採用されたと認められる。久保田は、同人が誓約保証書(<証拠略>)を提出した昭和六〇年九月一〇日に試雇社員として採用されたと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠がない。
五 まとめ
以上のとおり、一審甲事件原告吉岡、同小倉、同萩原、同横野の退職金の請求及びその付帯金の請求は理由がある。同久保田の退職金及びその付帯金の請求は、原判決主文掲記の限度で理由があるが、その余は理由がない。
第二 不法行為に基づく慰藉料請求について
一 吉岡らは、こう主張する。日本コンベンションが平成七年七月一一日付でした懲戒解雇の意思表示は、その理由がないのに、吉岡らの退職の意思表示に対する報復としてなされた違法なものであり、人格及び名誉を毀損された、と。
二 懲戒解雇は、企業内秩序を乱した者に対する懲戒権の行使としてなされるものであるから、懲戒解雇があると、これを受けた労働者は多かれ少なかれ人格、名誉を傷つけられ、精神的損害を受けることがある。しかし、懲戒解雇が就業規則または労働契約に基づき、その範囲内で行われている限り、正当な懲戒権の行使として違法性がなく、不法行為は成立しない。
三 そこで、懲戒解雇事由の存否について検討する。
1 事実の認定(原判決の引用)
原判決五六頁四行目文頭から同八一頁一行目文末までを引用する。
ただし、次のとおり訂正する。
(一) 原判決五六頁末行目の「前記」から同五八頁九行目文末までを次のとおり改める。
「前示争いのない事実、(<証拠・人証略>)を総合すれば、次の事実が認められる。」
(二) 同六一頁三、四行目の「入社した。」を「入社し、昭和六二年六月一日には、常務取締役関西支社長に就任した。」を加える。
(三) 同頁末行目の「会社」を削除する。
(四) 同六二頁七行目の「平成元年ころ」を「平成元年一〇月」と改める。
(五) 同六三頁九行目の「進めるとともに」から同頁末行目の文末までを次のとおり改める。
「進めた。平成二年二月五日には特別朝礼を実施し、近浪社長と隈崎副社長は、従業員全員に対し、これから行おうとする社内改革の意義や内容を明らかにした。時間外労働に対する割増賃金については同年四月から実施すると告げた。」
(六) 同六四頁一行目の「被告隈崎は」の前に「その後、」を加える。
(七) 同頁末行目から同六五頁一行目にかけての「拒否したことから」を「拒否した。かくして、前示のとおり平成二年二月五日の特別朝礼で近浪社長と隈崎副社長が従業員に告げていた同年四月からの時間外労働の割増賃金の支払いも、近浪社長自身の消極的姿勢により、とん挫してしまった。そこで、」と改める。
(八) 同六五頁四行目の「部門長会議」を「部課長会議」と改める。
(九) 同頁九行目の文末に次のとおり加える。
「また、近浪社長は、中西管理本部長の辞任も認め、同年五月一五日には、中西に出勤不要と言い渡した。中西は、そのまま会社に出勤しなくなり、平成二年六月二七日の株主総会で取締役に再任されず、日本コンベンションと関係がなくなった。しかし、隈崎は、代表取締役副社長辞任後も依然取締役関西支社長の地位にあり、また、このころは花と緑の博覧会の開催中であることもあって、そのまま会社にとどまり、受注した花博の業務に忙殺されていた。また、隈崎は吉岡とともに、その後も本社の月次会議に出席して業務報告をしていた。」
(一〇) 同頁末行目の「各種会議」の前に「人材派遣業、」を加入する。
(一一) 同六七頁四行目の「蘭記載の」を「欄記載の」と改める。
(一二) 同頁末行目の次に改行して次のとおり加える。
「ところで、隈崎らが、右ネットワークを設立した経緯は次のとおりであった。すなわち、関西支社ではアルバイト従業員の手配を女性社員の安陵がほぼ専属的に取り扱っていた。しかし、安陵の仕事が厳しく、両親が安陵の身体を心配して退職させる意向を関西支社に申し出た。安陵も両親の要請に反することができず、平成二年三月には一旦退職届を提出した。しかし、安陵に辞められるとアルバイトの手配の仕事が渋滞することを心配した隈崎らは、安陵をなだめてやる気にさせるため、また、関西支社の効率的な経営を考え、安陵の退職問題を契機として、主にアルバイトの手配を扱う関西支社の下請会社であるネットワークを設立した。商業登記簿の会社の目的欄にも人材派遣業が第一の目的と掲げられた(<証拠略>)。隈崎、吉岡らはネットワークの設立の件を本社に報告していなかったが、同人らは関西支社の実力者であって、本社もこれを拒まないと考えていた。ネットワークの事務所は、関西支社の隣接ビルに置かれた。隈崎、吉岡らは、ネットワークの設立を従業員に秘密にしていたわけではなく、ネットワークの存在を知っている従業員も数多くいた。しかし、ネットワークは、設立後まもなく後示新会社設立騒動が勃発したため、実質的な活動に入ることがなかった。
ネットワークの設立につき、日本コンベンションは、次のように主張する。すなわち、隈崎らが日本コンベンションを退職して競業を営む新会社の設立を計画し、新会社の活動資金を蓄えるための会社として設立したのがネットワークである。ネットワークは設立後実質的な活動をしていないが、それは、既に大阪市内に同一の商号を有する株式会社が存在していたためにすぎない、と。
たしかに、前認定のとおりネットワークの設立時期は隈崎が代表取締役副社長から取締役関西支社長に降格された一か月後である。それは社内改革がとん挫して間もないころでもある。隈崎、吉岡らが近浪社長ら本社の対応に不満を抱いていたであろうことも推認に難くない。また、ネットワークの設立に当たっては、前示のとおり隈崎の住友銀行当時の同僚であった林喜久恵が、現実に資金の提供をしたわけでもないのに株式引受名義人となったり、監査役に就任したりしている。安陵の退職を慰留するにしては安陵が平取締役に就任するにとどまり、かつ、安陵の仕事量を軽減する具体的な方策も明らかでないなど、不審な点がないではない。しかし、前示のとおり、隈崎は代表取締役副社長を辞任した後もなお取締役関西支社長として、当時開催中であった花博の業務等の煩務に携わり、また、本社に出張して業務報告もしていた。吉岡にしても同様である。何より、この頃隈崎と吉岡あるいは他の一審甲事件原告らが示し合わせて、日本コンベンションからの独立を計画していたことを示す的確な証拠がない。もし、日本コンベンション主張のように、ネットワークが当初から隈崎らの独立のための会社であったとすれば、何故ネットワークを活用しないで、後に吉岡らが新会社設立の意思を明確にした後に改めてコングレという会社を設立する必要があったのかが明らかではない。この点につき、日本コンベンションは、大阪市内に同一の商号を有する株式会社が存在していたために新たにコングレを設立する必要があったとしている。しかし、それだけのことなら、ネットワークの商号を変更すれば十分である筈なのに隈崎らは新たに資本を募ってコングレという別会社を設立しているのである。この点に疑問が残る。
そうすると、ネットワークは隈崎らの独立のための新会社の設立資金を作るために設立したものであるとの日本コンベンションの主張は、右の合理的な疑いを払拭できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。そうしてみれば、ネットワークは、前示説示のとおりの軽緯で設立されたというほかない。」
(一三) 同六八頁三行目の「していることを知り」を「しているものと考え」と改める。
(一四) 同頁末行目の文末で改行し、次のとおり加える。
「隈崎は、出身の住友銀行に相談に行くといって会社を出た。会議室での当日の出来事は関西支社の従業員に広く知れ渡った。
なお、近浪社長らが、突然右行動に出た原因、動機は、同人らが、前示隈崎の代表取締役副社長の解任、降格、中西の管理本部長解任に続くネットワークの設立の動向を知って、これを隈崎、吉岡らが新会社を設立して独立を企てていると考えたことにあるものと推認できる。しかし、前示のとおり、ネットワークの設立が、隈崎、吉岡らの新会社設立の資金を蓄えるためのものであったとはいい切れないし、他に、隈崎らが、右平成二年六月七日の時点において、新会社設立の意向を固めていたことを認めるに足る的確な証拠がない。」
(一五) 同六九頁九、一〇行目の「発表するとともに、新会社に参加することを呼びかけた。」を「発表し、新会社設立にあたっての決意を述べて新会社への参加を示唆した。」と改める。
(一六) 同七〇頁二行目の文頭から同六行目の文末までを次のとおり改める。
「(三) 新会社の設立を宣言した後、吉岡らを含む一八名の従業員は、平成二年六月一一日、同年七月一五日付をもって、日本コンベンションを退職する旨の意思表示をした。そして、隈崎と相談の上、その指揮の下に吉岡らはその頃から事務所を探したり、関西支社の書類等を持ち出すなどしてコングレの設立準備手続に着手した。吉岡は隈崎に新会社の代表取締役に就任するよう依頼した。隈崎はそれまでにも新会社の設立に関与しており、これに参加を考えていたが、出身の住友銀行の意向を受けて、そのときは、目立った動きをしていなかった。」
(一七) 同七一頁三行目の「隈崎に対し」の次に「定例取締役会の決議だと言って」を加える。
(一八) 同七五頁九、一〇行目の「区切り」から同七六頁六行目の文末までを次のとおり改める。
「区切りがついた。日本コンベンションの黒川常務は、引継のすべてが完了したことを確認するとの書面に署名捺印した。なお、関西支社の一部門であった京都、名古屋支社の業務は、関西支社の案件に含めて引継がなされた。」
(一九) 同七七頁六行目の「ときは」を「時点では」と改める。
(二〇) 同七九頁三行目の「原告らは、」の次に「前示のとおり」を加える。
(二一) 同頁末行目の「勧誘行為により」を「勧誘行為に応ずるなどして」と改める。
2 検討
(一) 当裁判所も、原判決と同様、次のとおり判断する。
(1) 吉岡ら(一審甲事件原告ら)の行為は次の就業規則に該当する。
イ 日本コンベンションの従業員に対する被告コングレへの移籍の勧誘は、就業規則三二条、三三条八号、三八条二号ないし四号。
ロ 資産、書類、物品などの持ち去りは同一六条、三一条一項、三二条、三三条二号、五号、六号、三八条二号、四号、七号。
ハ 被告コングレの設立準備は同三〇条二項、三二条、三八条四号。
原告らには、それ故に懲戒解雇事由がある。
(二) その理由は、原判決理由説示中原判決八四頁一〇行目文頭から一〇二頁九行目文末までのとおりであるから、これを引用する。
ただし、次のとおり補正する。
(1) 原判決八八頁三行目の「指示により」を「指示により前認定のような経緯で」と改める。
(2) 同頁一〇行目の「前記二4(三)で認定したように」を「前示のとおり」と改める。
(3) 同八九頁五行目の「証拠はない」を「的確な証拠がない」と改める。
(4) 同六行目文頭から九一頁二行目文末までを次のとおり改める。
「したがって、原告らのネットワーク設立行為が懲戒事由に当たるとはいえない。」
四 したがって、吉岡らには、以上の懲戒事由があり、日本コンベンションが行った右懲戒解雇は違法であるとはいえない。
なお、吉岡らは、本件懲戒解雇が報復目的でなされたもので懲戒権の濫用に当たり違法であるという。しかし、本件全証拠によってもこれを認めるに足らない。
五 よって、吉岡らの不法行為に基づく慰籍料の請求は理由がない。
第三 共同不法行為に基づく損害賠償請求
一 従業員の退職とネットワーク、コングレの設立経過等について
この設立経過については、前示第二の三1において原判決の補正引用により認定したとおりである。
二 違法行為の検討
右認定事実をもとに、日本コンベンション主張の一審乙事件被告ら(隈崎、吉岡、コングレ)の違法行為の成否について検討する。
1 原判決の引用
右違法行為の成否については以下のとおり附加するほか原判決一一一頁三行目から一一七頁九行目文末までのとおりであるから、これを引用する。
ただし、次のとおり補正する。
原判決一一二頁五、六行目の「常務取締役ではなく平取締役にされた」を「常務取締役にもとどまれずに平取締役に降格された」と改める。
2 ネットワーク、コングレの設立
(一) 日本コンベンションは、株式会社ネットワークは、新会社設立グループが新会社(コングレ)設立の先駆けとして、新会社の資金づくりのために設立した会社であると主張し、原判決もそのように認定している。しかし、前示のとおりこれを認めることができない。
(二) なお、前示のとおり、隈崎と吉岡は、近浪社長や本社に報告しないでネットワークを設立した事実が認められる。しかし、日本コンベンションはこの報告欠如の違法を主張していない。しかも、この点で何らかの違法性を捉えたとしても、ネットワークが実質的な活動をした事実はなく、右報告のないネットワークの設立により日本コンベンションが損害を被ったとはいえず、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
(三) 次に、前示のとおり、吉岡は、平成二年六月一一日新会社設立を宣言し、同年六月二五日、コングレを設立した事実が認められる。隈崎は前示原判決の引用により認定したとおり右設立当初から多かれ少なかれその設立準備などに積極的に関与していたものである。
右認定の隈崎の行為は、商法二六四条の趣旨に反し、同法二五四条ノ三の忠実義務ないし同法二五四条、民法六四四条の善良な管理者の注意義務の重大な違反であって、不法行為法上も違法である。
3 隠し口座の開設と資産の領得
(一) 八木啓充の報告書(<証拠略>)には、隈崎らが住友銀行大阪駅前支店に隠し口座を作った旨の日本コンベンション主張の事実に副う部分がある。しかし、右銀行口座は、近浪社長と隈崎副社長とが社内改革の必要を一致して従業員に特別朝礼で訴えた平成二年二月五日より以前から利用されていた口座であることが認められる。そうすると、そのような時期に、隈崎、吉岡らが新会社設立のために隠し口座を作っていたとは到底考えられず、日本コンベンションの主張は採用できない。
また、日本コンベンションは、太陽神戸三井銀行堂ビル支店の普通預金口座(<証拠略>)に平成二年四月一三日、花博事務局から二二六六万円が入金されたのに、ほとんどが正規の口座に入金されていないと主張する。しかし、花博では各パピリオン毎に銀行口座をもうけ、入出金の状況を分かり易くする必要があった。また、コンパニオンの研修費等の前払的な性格を有する費用を一時的にプールするため、このような銀行口座を開設する必要があり、過去に行われたデザイン博でも同様のことがあった。<証拠略>の結果によればこのように認められる。
(二) また、いずれにしても、日本コンベンション主張の銀行口座に入金された金員は、平成二年八月八日、日本コンベンションに引き渡されているのであるから(争いがない)、これにより、日本コンベンションに、その主張にかかる損害(粗利益の喪失)が生じたものとはいえない。
(三) そうすると、隈崎らが隠し口座を開設して日本コンベンションの資産を領得したという日本コンベンションの主張は理由がない。
4 業務の引継の懈怠
前示のとおり、業務の引継は全部終了したものと認められる。なお、日本コンベンションは、隈崎らが、日本医学会総会の案件の明示的な引き継がなかったと主張するが、参考案件として引継がなされており、それ以上に何をすべきであったかについての具体的な主張もなく、日本コンベンションの主張は採用できない。
5 取引先に対する虚偽の事実の告知
日本コンベンション主張の事実を認めることができない。その理由は、原判決九五頁九行目の文頭から同九六頁五行目の文末までのとおりであるから、これを引用する。
6 取引先の奪取
(一) 日本コンベンションは、原判決添付の別紙四記載の取引先、とくに古い顧客であった一向社、タバイエスペック、日本電装の三社をコングレに奪われたと主張する。一般に、継続的取引契約または個別の取引契約に第三者が介入し、契約関係を破棄したのであれば、その態様によってはそれが債権侵害として不法行為の違法性を具備することもあり得る。しかし、そのような契約関係が未だ成立する以前に、第三者が当該顧客と同様の取引を始めたとしても、虚言をもって従前の契約者を誹謗するなどの違法な手段を用いる等の特段の事情がない限り、それは自由競争の範囲内の行為であって、不法行為の違法性を有するものとはいえない。
(二) 前示引用の原判決挙示の各証拠によれば、日本コンベンション主張の前示顧客は同社の取引先であったこと、日本コンベンションとの取引関係が消滅し、コングレとの取引関係が成立したことが認められる。しかし、右顧客と日本コンベンションとの間に、継続的取引契約が成立していた事実も、個別的な取引契約が成立しており、それをコングレが奪ったという事実もこれを認めるに足る的確な証拠がない。コングレが取引先を取得するについて違法な手段を用いたことその他特段の事情があることについても同様に的確な証拠がない。そうすると、右顧客をコングレが取得し、日本コンベンションがこれを失ったのは、同社の取引先を奪取した違法行為であるとの日本コンベンションの主張は採用できない。
7 会議案件の奪取
(一) 日本コンベンションは、JMCP(日本医学放射線学会総会と日本放射線技術学会総会の合同開催)、日本外科学会、第五〇回日本脳神経外科学会、国際腐植物質学会第五回国際会議、第四回名古屋カンファレンスの会議案件をコングレに奪われたと主張している。しかし、前示6の取引先の奪取について論じたのと同様、右会議案件について、継続的な専属的取引契約や個別的取引契約が成立していたものでない限り、他社が受注しても、特段の事情がない限り、自由競争の範囲内の適法な行為であって、不法行為の違法性はない。
(二) そして、日本コンベンションが右会議案件を既に受注していたとか、継続的専属的取引契約を締結していたことを認めるに足る的確な証拠がない。そうすると、右会議案件を奪われたことが不法行為に該当するとの日本コンベンションの主張も採用できない。
8 忠実義務、競業避止義務違反
(一) 隈崎について
隈崎は日本コンベンションの取締役であったから、商法二五四条三項により忠実義務を、同法二六四条一項により競業避止義務を負担していたものである。隈崎は、平成二年六月二七日取締役を退任しているが、それまでの間にも、コングレの設立の準備に積極的に関与したもので、同人が、競業避止義務の趣旨に反し、善良な管理者としての義務ないし忠実義務に違反したことは既記のとおりである。なお、日本コンベンションは、この外、隈崎が早くから新会社の設立を計画し、その意図のもとにネットワークを設立したと主張するが、ネットワークの設立の経過は、前示のとおりであって、日本コンベンションの右主張は採用できない。
(二) 吉岡について
当裁判所も、前示引用の原判決説示のとおり、吉岡がコングレを設立させ、その結果、日本コンベンションの業務を混乱させたのは同人の幹部職員としての地位に照らし雇用契約上の誠実義務に反する違法行為であると判断する。
9 被告コングレの責任
日本コンベンションは、前示のとおり、コングレの設立、存続自体が違法行為である。また、コングレは隈崎、吉岡の違法行為を利用する意図でこれに加担しているから、設立前の行為についても責任を負う、と主張する。
しかし、コングレの設立、存続自体が違法で、これによりコングレ自身が不法行為責任を負うとする論理は不可解でその主張自体が失当である。また、これを首肯すべき事情を認めるに足る的確な証拠もない。なお、日本コンベンションは、当審において右主張をしないと述べている。そして、新会社設立後退職するまでの期間中の隈崎らの行為はコングレの行為そのものであると主張する。しかし、コングレが設立された平成二年六月二五日から、隈崎が退任した同月二七日までの間、あるいは吉岡が解雇された同年七月一三日までの間に、コングレ自身の行為として前示従業員の移転の勧誘、引抜などコングレの開業準備行為がなされたとの事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。
次に、隈崎、吉岡らのコングレ設立前の行為についてコングレが責任を負うとの日本コンベンションの主張は理由がない。その理由は次のとおりである。
隈崎、吉岡らが、コングレを設立する目的で、競業避止義務の趣旨に反し、忠実義務、善管義務、あるいは誠実義務に反して、従業員の移転の勧誘、引抜を含む設立準備行為を行ったのは、前示のとおり日本コンベンションに対する同人ら個人の不法行為に当たる。しかし、隈崎、吉岡らの右行為は、未だ会社の定款の作成も発起人による株式の引受もない時点で行われたものであって、設立中の会社ですら成立していない。せいぜい隈崎、吉岡らによる発起人組合が成立しているにすぎない。発起人組合の設立準備行為についても直接には会社にその効果が移転するものではなく、それには成立後の会社による追認など特別の権利移転行為が必要である。そして、コングレが右隈崎、吉岡らの右不法行為責任を引き受けないし受け継いだことについては、その主張もないし本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。なお、この点につき日本コンベンションは、隈崎、吉岡らの新会社グループはコングレと実質的同一性、継続性を有すると主張する。しかし、新会社グループなるものが右の発起人組合を越えた設立中の会社といえるものではない。なぜなら、この時点では、前示のとおり、設立中の会社を認めるのに必要な会社の定款の作成も発起人による株式の引受も認めることができないからである。
三 損害
1 日本コンベンションの損害の主張と当裁判所の判断は次のとおりである。
(一) 有形損害
関西支社翻訳部門、名古屋支店、京都支店の売上減少による損害
(主張)
(1) 主たる主張
右部門、各支店の従業員全員の引抜き、業務引継の不履行、取引先奪取により売上減少が生じた。その損害は、従前の粗利益の平均から売り上げ減少後の粗利益の差額の三年分であり、その合計は、関西支社分一億五二〇八万三八七二円、名古屋支店分一億二九〇二万〇五八〇円、京都支店分二九二五万九九七二円である。
(2) 予備的主張
翻訳部門の主要顧客、会議案件の奪取の損害は、合計二九四二万四三〇四円である。
(判断)
従業員の移転勧誘、引抜が全員になされたとは認められず、原、当審における隈崎、原審における吉岡の供述、弁論の全趣旨に照らすと、従業員の大半は自発的に新会社であるコングレに参加したものであることが認められる。
また、業務引継の不履行、取引先奪取、予備的主張の違法な主要顧客、会議案件の奪取などが認められないことは前示のとおりである。
したがって、日本コンベンションの右主張の損害は、隈崎、吉岡の行った違法な従業員の移転勧誘、引抜と因果関係があるものとして特定することができず、採用できない。
(二) 無形損害
(主張)
日本コンベンションは、社会的、経済的信用の失墜により一億五〇〇〇万円の損害を受けた。
(判断)
前認定の事実、弁論の全趣旨に照らすと、隈崎、吉岡の違法行為により、日本コンベンションの社会的、経済的信用が減少したことが認められる。
そして、このような場合、損害が生じたことは認められるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難である。それ故、当裁判所は弁論の全趣旨及び本件全証拠調べの結果とこれにより認定できる前認定の各事実に基づき、金四〇〇万円をもって相当な損害賠償額であると認定する(民訴法二四八条)。
(三) したがって、隈崎、吉岡は連帯して日本コンベンションに対し、右損害賠償金四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成四年五月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
第四 結論
一 以上のとおりであるから、結論は次のとおりである。
1 退職金の請求
(一) 一審甲事件原告吉岡の退職金及びその付帯金の請求はすべて理由があり、これを棄却した原判決は相当ではない。よって、吉岡の甲事件の控訴に基づき原判決を変更する。
(二) 一審甲事件原告小倉及び同萩原の退職金及びその付帯金の請求はすべて理由があり、これを認容した原判決は相当である。よって、日本コンベンションのこれに関する控訴を棄却する。
(三) 一審甲事件原告横野の退職金及びその付帯金の請求はすべて理由があり、その一部を棄却した原判決は相当ではない。よって、横野の甲事件の控訴に基づき原判決を変更する。また、日本コンベンションのこれに関する控訴は理由がないから棄却する。
(四) 一審甲事件原告久保田の退職金及びその付帯金の請求は、原判決主文掲記の限度で理由があり、その余は理由がない。原判決は相当であるから、同原告のこれに関する控訴を棄却する。また、日本コンベンションのこれに関する控訴も理由がないから棄却する。
2 慰藉料の請求
一審甲事件原告らの不法行為に基づく慰籍料請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よって、一審甲事件原告らのこれに関する控訴を棄却する。
3 共同不法行為による損害賠償請求
日本コンベンションの一審乙事件被告吉岡純二、同隈崎守臣に対する損害賠償請求は、前示の限度で理由があるが、その余は理由がない。よって、これを全部棄却した原判決は相当でない。よって、日本コンベンションの控訴に基づき原判決を変更する。
日本コンベンションのコングレに対する請求はすべて理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。よって、日本コンベンションのこれに関する控訴を棄却する。
二 よって、以上の結論を原判決の主文の項目ごとに整序し、民訴法に基づき訴訟費用の負担を定めたうえ、仮執行の宣言をして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治)
裁判官 細見利明は転補のため署名押印できない。
(裁判長裁判官 吉川義春)